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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)57号 判決 1984年11月28日

原告

アキレス株式会社

右訴訟代理人弁護士

安原正之

佐藤治隆

小林郁夫

右訴訟代理人弁理士

安原正義

被告

弘進ゴム株式会社

右訴訟代理人弁理士

土橋秀夫

江藤剛

主文

特許庁が昭和五八年一二月九日に同庁昭和五一年審判第一〇五〇四号事件についてした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告は、主文同旨の判決を求めた。

二  被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二  原告主張の請求の原因

一  本件商標権及び特許庁における手続の経緯

被告は、指定商品を第二二類「はき物(運動用特殊ぐつを除く。)、かさ、つえ、これらの部品及び附属品」とし、昭和四四年八月一四日登録出願(商願昭四四―七一三一三号)、昭和四六年八月九日出願公告(商公昭四六―四一七一二号)、昭和四七年三月三一日登録、昭和五七年五月二七日更新登録にかかり、別紙(一)記載のとおりの構成を有する登録第九五六九二三号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。原告(旧商号興国化学工業株式会社、昭和五七年二月一日現商号に商号変更。)は、昭和五一年九月二八日、被告を被請求人として、特許庁に対し、本件商標の登録を無効とすることについての審判を請求したところ、特許庁は、これを同庁同年審判第一〇五〇四号事件として審理したうえ、昭和五八年一二月九日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は、昭和五九年二月一日原告に送達された。

二  審決の理由の要点

本件商標の構成、指定商品及び登録の経緯は前項記載のとおりである。

これに対し、登録第六九二九三六号商標(以下「引用商標」という。)は、別紙(二)のとおり「コザッキー」の仮名文字を横書きして成り、第二二類「はき物(運動用特殊ぐつを除く。)、かさ、つえ、これらの部品及び附属品」を指定商品として、昭和三九年七月二三日登録出願、昭和四〇年一二月一四日登録、昭和五二年二月一四日更新登録にかかるものである。

よつて按ずるに、本件商標及び引用商標の構成は、それぞれ前記のとおりであるところ、両者は語尾において「ク」と「キ」の字形を異にする文字に差異を有するものであるから外形上互いに区別しうるものと認められる。

次に、称呼についてみるに、本件商標は「コザック」の文字を書して成るものであるから、該文字に相応して「コザック」の称呼を生ずること明らかである。他方、引用商標は「コザッキー」の文字を書して成るものであるから、同様に「コザッキー」の称呼を生ずること明らかである。そこで、前者より生ずる「コザック」と後者より生ずる「コザッキー」の両称呼を比較するに、両者は、「コ」「ザッ」の音を共通にするとしても、語尾音において「ク」「キー」の差異があり、この二つの音はそれぞれ帯有する母音が、前者は(u)後者が(i)と異なるばかりでなく、加えて後者は末尾音に長音を有するものであるから、この両者の差異が短い音構成に係る全体の称呼に及ぼす影響は極めて大きく、これを一連に称呼する場合において両者の聴感を著しく相違させ互いに聴別しうる差異を有するものと判断するのが相当である。

さらに、観念の点についてみるに、本件商標「コザック」は、ソ連、東欧などに住むタタールとスラブの混血民族(コザック人)であつて、特に勇敢な騎兵として知られているのに対し、引用商標は、請求人も認めているとおり創造語であるから、両者は比較すべくもない。

ところで、請求人(原告)は、引用商標の指定商品のうち、靴類の防寒、防水用の短ブーツについて、あたかもロシヤ地方におけるコザック人にでも使用されるような意味合いで「コザッキー」が認識されていることは想像に難くないところであり、また、実際の商取引においてもそのように認識されている旨を述べ、<証拠>を提出している。しかして、右各証拠によれば、請求人(原告)が「コザッキー」なる商標を商品防寒、防水用の短ブーツについて使用している事実は認められるとしても、請求人の採択の意図は別として該証拠が同人の主張するようにコザック人にでも使用されるという意味合での認識が需要者間に存在することを示すものとは認められないし、そのような商取引の実情があるものともいい難い。

したがつて、本件商標は引用商標と外観、称呼及び観念のいずれの点においても非類似の商標であるから、本件商標の登録は商標法四条一項一一号の規定に違反してなされたものではないので、同法四六条一項一号の規定によりその登録を無効とすべきでない。

三  審決を取り消すべき事由

引用商標の構成は、審決の認定するように別紙(二)のとおりであるが、本件商標と引用商標とは、後記のとおり観念及び称呼の点で類似するものというべきであるから、審決の判断は誤りであり、審決は違法として取り消されるべきものである。

1  観念の類似について

創造語であつてもなんらの観念も生じないものではないところ、引用商標「コザッキー」の称呼は、ローマ字で表わせば「kozzak」であり、審決のいう「ソ連、東欧などに住むタタールとスラブの混血民族(コザック人)」を表わす「コザック」(KOZAK, cossack)に通する称呼部分「KOZZAK」を有しかつ、これが引用商標の称呼の主要部分となつているから、引用商標が、「コザック」或いは「コザック人」に由来し、関連し、少なくとも暗示する商標であることは、引用商標の構成自体から認められるところであつて、引用商標は創造語であるからなんらの観念も生じないとした審決の判断は極めて皮相な見解で失当である。

また、我が国における英語の普及に伴い、英語名称を愛称化する例の影響を受けて、呼び易くするため語尾を変化させ、これに長音「ー」を続けて愛称とすることが広く行われているので、「コザッキー」は「コザック」の愛称化したものとして取引者、需要者は理解し、両商標は観念において近似したものと判断するものである。

他方、「コザック」は、審決も認定するように、ソ連、東欧などに住むタタール人とスラブ人の混血民族のことで、古くから日本語化して、日本人にとつてなじみの深い、しかも特徴のある語になつており、しかも、「コザック」に近似した構成で別異の観念を生ずる印象的な語は見当たらないから、「コザック」及びこれと同様に右民族を表わす言葉として古くから日本人に親しまれて来た「コサック」、「カザック」「カサック」、「カザーク」などと近似した、引用商標のような構成、称呼を有する語が使用された場合、「コザック」となんらかの関連性を有するものと判断されるのが自然である。

また、引用商標「コザッキー」は、「キー」の語尾を有するが、そのような語尾を有する単語は、在来の日本語には多くないのに対し、日本人の接するロシヤ語ないしロシヤ語に由来する外来語の名称(例えば「ヤポンスキー(日本の、日本人)」)、人名(例えば「ドストエフスキー」、「チャイコフスキー」)、地名(例えば「ダマンスキー」)等で語尾に「キー」を有するものが数多く見受けられ、引用商標は、語尾に「キー」を有することで、全体としてロシヤ、ロシヤ人に関連した語感を強める言葉になつており、語頭から語中間にかけての「コザック」との前記構成の共通性と相まち、ロシヤの「コザック」、「コザック人」と共通の或いは関連した観念を生ずる。

なお、ロシヤ語では、Казк(kaza:k,カザーク)〔男性名詞〕が「コサック」であり、Казцкий(kaza:tski,  カザーツキイ)は形容詞で「コザックの」を意味し、また、 Казки(kaza:ki,カザーキ)はКазак(kaza:k,カザーク)の複数形である。このように、「カザーク」の語尾を変化させて「カザーツキイ」とすることで、名詞が形容詞となり、「カザーク」の語尾を変化させて「カザーキ」とすることで「コザック」の単複名詞の違いが生ずるが、いずれも「コサック」に関連した語である。このようなロシヤ語の語意からも本件商標「コザック」と引用商標「コザッキー」とは、語尾に変化があるが、語幹を共通にし、語意相関連のある語で観念類似するといえる。

したがつて、本件商標「コザック」と引用商標「コザッキー」とは観念において相互に類似するものである。

2  称呼の類似について

本件商標と引用商標とは、その称呼上前半部の三音「コザッ」を共通にし、その後尾音「ク」と「キー」に差異を有するにすぎないこと明らかであり、両者の称呼をローマ字で表わせば、「kozzaku」と「kozzak」となりその差異は僅かに語尾の「u」と「」の相違となるところ、この「ク」と「キー」の差異は五〇音中カ行に属する近似音であり、かつ、語尾音ということも相まつて、これらを一連に称呼した場合における全体の語韻語調は極めて近似するものといわざるをえない。

また、発音の強弱の関係からみても、両商標とも「コ」、「ザ」の音にアクセントを有し、該部分を強めて発音するものであり、しかも、「コ」、「ザ」は、語頭にあるが故に最初に発音され、最初に聴取されて、この部分の印象が特に強く、したがつて、両商標を称呼する場合に、最初に強勢して発音され、最も強い印象を与える「コ」、「ザ」と、これに続く促音「ッ」を共通にする両商標は、この点において称呼の類似性を有するといえる。

そして、両商標の差異とされる「ク」及び「キー」の語尾音は、両者とも語頭の「コザッ」に比し弱く発音されるものである。そして、「ク」が「ku」と発音されるのに対し、「キー」は「k」と発音されるが、「キー」の長音「ー」は前の音「キ」を延長して発音するものであり、「ク(ku)」と「キ(ki)」とでは両者ともカ行に属し、子音「k」を共通にするものである。母音においては「ウ(u)」と「イ(i)」との違いを有するが、両母音とも狭母音に属し、「ウ(u)」の発音では唇の開きが「イ(i)」に近い形となることもあり、「i」と「u」との間では、「語根のある音が似た他の音にかわる」交替現象を生ずるほど近似したもので、称呼として類似とみられる例が多いのである。

さらに、「k」を語尾に有する外来語を日本語で表わすとき、「ク」と表わした方が語源に正確な場合でも「キ」と表わしたり「ク」の表示と「キ」の表示を併用することが多く、例えば、「steak」を「ステーキ」と、「cake」を「ケーキ」と、「rake」を「レーキ」と、「check」を「チッキ」と、「deck」を「デッキ」と「jack」を「ジャッキ」と表わしたり、「インク」と「インキ」、「ストライク」と「ストライキ」、「ブレーク」と「ブレーキ」、「ブリック」と「ブリキ」、「スティック」と「ステッキ」などの併用が挙げられる。即ち、外来語の表示称呼において、「キ」と「ク」は混用されている実情があり、称呼として類似とみられる例が多いのである。

以上によれば、本件商標「コザック」と引用商標「コザッキー」とは称呼上も類似したものである。

3  実際取引における混同について

実際取引においても、一般需要者に比べて業界内の事情に詳しい業界紙の記者が、被告の系列にあつて専ら被告の製品を販売している弘進商事株式会社の商品につき「コザック」と書くべきところを「コザッキー」と取り違えて報道しており(<証拠>「靴商業」昭和五〇年八月五日第二頁)、この事例をみても本件商標「コザック」と引用商標「コザッキー」とは、実際取引上も混同する慮れのある類似のものであることは明らかである。

第三  請求の原因に対する被告の認否及び主張

一  原告主張の請求の原因一及び二の各事実及び引用商標の構成が別紙(二)のとおりであることは認める。

二  審決を取り消されるべきものとする同三の主張は争う。原告主張の審決取消事由は、後記のとおり、いずれも理由がなく、審決には取り消されるべき違法はない。

1  観念の類似の主張に対して

KOZAK,或いはcossackは、審決のいう混血民族という観念を表わす表現態様にすぎず、引用商標の称呼音を表わした構成ローマ字中の「KOZ-ZAK」が右の特定の観念の表現態様KOZAK等に共通しているからといつて、これが引用商標の主要部分となつているという主張は根拠がない。引用商標の構成は、KOZAKでもなければcossckでもなく、コザッキーなのであり、該構成自体から観念を把握すべきであつて、構成上コザック或いはコザック人に由来し、関連し、少なくとも暗示する、とはいえない。次に、愛称化の点については、愛称は主として親愛の情によつて人に感得使用されるものであり、少なくとも、愛称化される人・事物と該人・事物の愛称表現が互いに同一であると理解されていなければならないものであるところ、本件はその様な同一性があるかどうかが問題なのであるから、仮に愛称化の普及を前提としても該前提を本件に適用すべき理由がないことは明らかである。

また、原告は、「コザック」などと近似した引用商標のような構成、称呼を有する語が使用された場合、「コザック」となんらかの関連性を有するものと判断されるのが自然であると主張するが、本件で問題とされているのは、「コザッキー」という構成或いはコザッキーという称呼音がコザックと近似しているかどうかであるはずであり、この点における根拠づけがなければ、コザッキーという構成或いは称呼音がコザックとなんらかの関連性を有するものと判断されるとはいえないはずである。さらに、コザックが日本人にとつてなじみの深い、しかも特徴のある語になつているのであれば、引用商標と一層明確に区別できるものといえよう。

なお、ロシヤ語に由来する外来語の名称、人名、地名等で語尾にキーを有するものが多いから「コザック」と「コザッキー」とが観念上類似するというのは、事実上の根拠を欠く主張にすぎない。

以上のとおりで、本件商標になんらかの観念があるとしても、引用商標には特定の観念がないものであり、コザックとコザッキーはそれぞれ独自に使用され、常に相対比して比較されるものではないから、原告の右主張は理由がない。

2  称呼の類似の主張に対して

ク音とキー音とを称呼聴覚すれば明らかなとおり、音は近似音とはいえず、その差異は、両者がそれぞれ三音、ッ音を加えても四音という短い構成音の末尾に位置していることにより、本件商標及び引用商標の全体の語調に影響を与えているのである。したがつて、両商標の称呼は、語韻語調が相違し、彼此混同を起こすことはない。

両商標の称呼中のコ音及びザ音にアクセントがあり、ク音及びキー音はコザック音に比し弱く発音されるとする根拠はなく、また、ク音及びキー音がその母音部がともに狭母音であり又は互いに交替現象を生ずるために類似するとすべき根拠はない。

次に、「キ」と「ク」が混用されている事例があるとしても、本件でも同様とみなければならない根拠はなく、混用されていると原告が主張するものも、観念の相違しているものを対照しているものがほとんどであり、混用の事例とはいえないのである。

本件商標と引用商標の各称呼音は、コ音及びザッ音において共通するとしても、両称呼音は短い音構成に係り、しかも末尾音のク音対キー音の差異があり、本件商標が全体として尻窄り的に称呼・聴覚されるのに対し、引用商標の称呼音はそのような語調はとらず、したがつて、両称呼音のク音対キー音の差異は単なるク音対キー音の差異に止まらず、両商標の称呼音全体の語調を互いに違えているほどの差異をもたらすものというべきである。

3  実際取引における混同の主張に対して

<証拠>に記載された弘進商事株式会社が被告の系列にあつて専ら被告の製品を販売している会社であることは認めるが、<証拠>の記事は、業界紙の一記者がたまたま誤記したにすぎず、該誤記から直ちに実際取引上も混同するとの結論に導くのは早計である。

4  なお、原告は、本件商標の出願後に登録出願して、ローマ字「COS-SACKY」を一連に横書きした態様でなる商標を登録第一四三二一二九号商標として、また、片仮名「コザッキーブーツ」とローマ字「COSSACKYBOOTS」を上下二段に並記した態様でなる商標を登録第一六六八四五三号商標として、それぞれ商標登録を受けており、さらに、昭和五九年五月二日には、片仮名「コザッキー」と「コザックレイン」を上下二段に並記した態様で成る商標について出願公告を受けているのであつて、このような事実関係からしても、本件商標は引用商標に類似しないとするのが妥当である。

第四  証拠関係<省略>

理由

一原告主張の請求の原因一及び二の事実(本件商標権及び特許庁における手続の経緯並びに審決の理由の要点)及び引用商標の構成が別紙(二)のとおりであることは当事者間に争いがない。

二そこで、審決取消事由の存否について検討する。

1  まず、本件商標と引用商標とが観念において類似するか否かについて考察する。

本件商標を構成する「コザック」の文字からは、「コサック」或いは「カサック」などの文字と同様に、古くから特に「勇敢なコザック騎兵」として日本人によく知られているロシヤのコザック民族の観念が生ずることは、<証拠>に照しても明らかであり、しかも、右「コザック」に発音、構成の近似する語で他の意味を表わすものが見当らないこともあつて、本件商標は、右観念について特に明確、強力な印象を与えるものということができる。

これに対し、引用商標を構成する「コザッキー」の文字は、<証拠>に照しても、コザック民族に関係のある言葉その他のロシヤ語そのものの発音を表わしたものとみることができないばかりでなく、仮に発音上右のようなロシヤ語に近いものとみることができるとしても、そのようなロシヤ語は日本国内において普通に知られているということはできず、その他なんらかの意味を持つ言葉を表わすとはみられないから、引用商標を構成する文字は、審決認定のとおり、いわゆる創造語とみるほかない。

ところで、<証拠>に照らして考えると、近時我が国においても、英語の普及に伴い、英語の名詞の語尾に「Y」又は「ie」を付した形容詞又は愛称がそのまま日本語(外来語)として使用されることが少なくない(例えば「スピーディー」、「ミルキー」、「クリーミー」)ばかりでなく、その影響を受けて、英語にはそのような用法がないのにかかわらず、外来語の名詞の末尾を「イ」列の長音に変化されて、形容詞或いは愛称として使用すること(例えば、<証拠>の「スナッキー」)もあると認められる。一方、前記のように明確、強力な観念を生じさせる「コザック」という語が存在し、これに構成、発音の近似する語も存在しない状況のもとで引用商標を構成する「コザッキー」の語に接するとき、それが英語には存在せず、本来特定の意味を有しない創造語であつたとしても、良く知られたコザック民族となんらかの関連のある語との印象を受けるとみるのが相当であり、結局、引用商標からは、「コザック民族に関連を有するもの」との観念を生ずるものということができる。

してみると、前記のとおりロシヤのコザック民族の観念を生ずる本件商標と引用商標とは観念において類似するものとみるのが相当である。

2  次に、両商標の称呼上の類否について考察するに、本件商標からは「コザック」の、引用商標からは「コザッキー」の各称呼を生じ、右両称呼は語尾の「ク」と「キー」において差異を有するのみであることが明らかである。そして、

(一)右の「ク」又は「キー」が強く発音されることはなく、語頭の「コザッ」にアクセントを置いて発音されると認められること。

(二)「ク」と「キー」の「キ」とは、五〇音の同行に属し、帯有する母音「u」と「i」とは、<証拠>によれば、ともに狭母音であつて他の母音に比して口の開きを小さくして発音されるものと認められること。

(三)「k」を語尾に有する外来語を日本語で表わす場合、例えば「steak」を「ステーキ」と、「cake」を「ケーキ」と、「deck」を「デッキ」と、「jack」を「ジャッキ」とするなど、「ク」と表わした方がより原語に近いとみられるときでもこれを「キ」と表わしたり、また、同一の原語に由来する同一の意味の語を例えば「インク」及び「インキ」、「エックス光線」及び「エッキス光線」等と表わして、「キ」と「ク」とを併用したりすることが多いことは、<証拠>の記載にもあるように良く知られたところであつて、外来語の表示においては「キ」と「ク」が混用されていることが少なくないとみられること。

以上の各事実を勘案すれば、両称呼は、いずれも短いものではあるけれども、その語尾における「ク」と「キー」の差異により全体の称呼に強い影響を受けるものではなく、全体の語感語韻において特段の相違を感じさせるものではないものであつて、時と所を異にしてこれらを聴取するとき、互いに混同する虞れのある類似のものとみるのが相当である。

3 さらに、<証拠>によれば、被告の系列にあつて専ら被告の製品を販売している会社であることに争いのない弘進商事株式会社の新製品発表会に関する業界紙「靴新聞」の記事中で、商標名を「コザック」とすべきところを「コザッキー」と誤記されていることが認められるが、右業界紙の記者は、特段の立証のない本件においては、その業界に属する商品の商標について通常の取引者、需要者に比して格段の知識を有するものと推認できるから、弁論の全趣旨を併せ考えると、右の誤記は本件商標「コザック」と引用商標「コザッキー」とが極めて混同され易い類似の商標であることを示すものとみるべきである。

なお、原告が、本件商標の出願後に、被告の主張するように、「COSSACK-Y」等の各商標について商標登録ないし商標出願公告を得たとしても、それは事案を異にし、前記判断を左右するに足りるものとはいえない。

4 以上によれば、本件商標と引用商標の類否に関する審決の判断は誤りというべきところ、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきことは明らかであるから、審決は、違法としてこれを取り消さなければならない。

三よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(瀧川叡一 楠賢二 牧野利秋)

別紙

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